vol.12
足りなかった距離(前編) |
|
2年近くの練習、想いとは裏腹に呆気ないほど、額や脇に滲む汗が滴るその前に、私のからだはキャンバスへと崩れ落ちた。
1ラウンド 1:30 KO負け これが私のアマチュアでの最初のレコードとなった。 今年の5月20日、曇り空の下、私は初のアマチュアの試合を行うべくブルックリンのKidケリージムという場所へと向かった。サブウェイを乗り換え、約1時間の道のりの間、私は一緒に来ている他の選手と雑談をしたり、新聞を読んだりと終始リラックスをしていた。試合のことは考えないように努めていた。試合が出来るかはまだこの時点ではまだわかっていなかったからだ。 アメリカのNYにおけるアマの試合はとてもアバウトである。と、私は想う。体重も3、4パウンドぐらいなら気にせず、時間の決まりもあってないようなものである。私も過去3度、当日に近い体重の相手がいなかったり、ドタキャンがあったりなど、肩透かしにあい、疲れを感じた。それ以来、私は確実に試合が出来ると決まるまで、リラックスをし人事のように自分を見つめるようになった。 ジムに着くと、やはり他のボクサーはまだ来ておらず、いるのはJrの部門に入るであろう子供ばかりであった。私はリングの周りに並べられた観客用のパイプ椅子に腰をかけ、静かに時間が来るのを待った。その後、計量、身体検査の時間が来て、それを無事に済ませた。少しの減量をしてきた事もあって、すぐに持ってきていたパスタを食べた。きっとボクサーにとってはこの時が至福の瞬間なのだろう。 8時開始予定の20分ほど前にカードの発表があった。 「No1 カード、、、、、、No2 カード、、、、」 一緒来ていた数人のボクサーの名がすでにいくつかあがった。 「No 11カード、、、、イ?イサイ ナカヤ?VS、、、、、」(なぜか多くのアメリカ人は最初イッセイと発音できずにイサイ と呼ぶ。)対戦相手の名前が聞き取れなかったが、ようやくこの瞬間、私は初めてのアマの試合をする事が決まった。最後から3番目、待ち時間は少し長いが、第1よりかはまだマシであった。 名を呼ばれたその刹那、確かに込み上げてくるものを私は感じた、、、、NYへ来て約1年半、曖昧だらけの事も多く、日常に慣れきった生活をしていたが、唯一の明確な目的というものがこのアマの試合に出場する事であった。 私の求めていた唯一の姿あるもの、、、、それと同時にその影に隠れる恐れという姿のないもの、、、、私はこの矛盾、有無の存在にずっと救われ、また恐れ続けてきたのだ。 そしてこの時感じたものとは、、、もう覚悟を決めるのだよ、求め、恐れ続けてきたものはあのリングの上で明らかになるのだよ。と、私に私自身が伝えた、、、その瞬間だったのだと思う。 「服を着替え自分の試合の3、4つ前からアップをするんだ。」 せわしくトレーナーが私に行った。(私はトレーナーをもろもろの事情でマイクという黒人で小太りの男に変えている。)彼のボクサーはほかにも二人が私のまえに出場するので、準備に追われていた。 予定時刻より15分遅れで試合は始まった。10歳にも満たない少年達が最初の数試合を行っている。 アメリカの子供達は自分の力を試し、披露する機会がある。公式の試合としてレコードも残る。、、、勝敗、、、。彼らは幼くしてその世界に触れている。疑いもなく、ただそれを信じて、、、。この場所ではすでに生き残りの戦いが始まっているのだ。そう思うと私は畏怖の念をもって彼等を見つめていた。 最終第3ラウンド前のインターバル中マイクが怒鳴った。 「どうした?手を出すんだ。自分から先に行くんだ!!」 彼のボクサー、ミッチェルは疲れて、声にも反応する事ができなかった。試合はそのまま手数の出ないミッチェルが終始相手のパンチをもらい続けて終わった。明らかなスタミナ不足による判定負け。 「何をやっていたんだ!勝負以前の問題だ!おまえは何一つ経験する事が出来なかったんだ。」 マイクは怒りを込めた静かな口調でミッチェルに突きつけた。私は知っている。彼はむやみ、意味もなく怒りを表す人間ではない。 エクスペリエンス=経験。彼はいつも試合後にこの言葉をよく使う。彼にとっての経験、それは常に何かを意味し、得る事にあるのであろうか?もしそうであるのであらば私は、リングの上での私は、彼にどう写ったのであろう?あの短い時間の中で、、、。 |
|
|
![]() |
![]() |
本当に久しぶりにコラムを書きました。引越しをしたり、トレーナーが変わったりといろいろあり、普段の怠けグセもろに出てしまった。これからは出来る限り毎週書き続けたいと思います。
ここでは近況について少し綴っていきたいと思います。今週は特に何もないので引っ越した今のアパート?の写真を貼っておきます。
(文と写真:中屋 一生)
お読みになった感想をissei45456@hotmail.comまでお聞かせ下さい。 |