vol.18
ジムの風景 ---そして人は生き続ける、--- |
|
今日、リングに上がった彼等や彼女達はこのことを知っていただろうか、、、 アメリカのアマチュアボクシングでこのようなルールがある。 試合中、1ラウンドに3回、8カウント(クリーンヒット、またはダメージがみられるパンチを受けた時に審判がカウントをする、スタンディング-ダウンのこと)または全ラウンドを通して4回とられた場合、RSC(KO)負けとなる。そして選手はその日以降60日間、アマチュアの試合には参加できない。確かそれは日本のプロでも同様、3ヶ月程、試合が組めなかったと記憶する。 先日、グリーソンズジムでアマチュアのボクシングショーがあった。ゴールデン-グローブというアマの大会前に毎年行われるものだ。例年通りこの日も多くの観客が訪れ、ジムの中には人の熱気とざわめきで溢れた。 人の目が選手を育む、ということがあるのなら今日、どれほどのボクサー達がそれを経験しただろう。後の大会でそれは示されるのだろうか、ゴールデン-グローブは今月中旬から開始される。 人の熱に促されてか、選手達は見応えのある試合を観衆にみせた。汗ばむ匂い、人体を弾く響き、泳がぬ瞳、どれもが熱によるものならば、あるいはそれに促されていたのは私達ではなかったか。 男子、140パウンドの試合でボディからの右フックのコンビネーションによりダウンをした選手がいた。その選手はパンチを受けた瞬間、一瞬の間を置き崩れるようにキャンバスに倒れた。左顎に打ち抜かれたそのパンチには前のラウンドからの伏線が見える素晴らしいもので、受けた選手のダメージは明らかだった。立ったが、その足に力を感じることができなかった。 私の隣で観ていたマイクは言った。 「もう止めた方がいい、アイツ、ゴールデン-グローブに出られなくなるぞ。」 「何故、そこまでダメージある?」 この時、私はそのルールを知らなかったのだ。 その選手はその後、すぐに連打を浴び審判のストップで敗北した。と、同時にゴールデン-グローブの出場権をも失った。彼のトレーナーはそして選手は今、何を思うのだろう。 「もしセコンドが最初のダウンの時止めていたら、いずれにしても負けてはいたが、ゴールデン-グローブにはでられたんだ。」 マイクはその試合後、間もなく帰っていった。後ろ姿に深い疲労を感じさせながら、、、 「もし自分の選手が同じ立場なら、どうしてた?」 翌週彼に問いただすと、 「状況にもよるが、、先週のような場面は間違えなく止めた。」 「じゃあ、お互いが3回8カウントを取られていて、どちらが勝ってもおかしくない時は?」 「それも状況によるな、でもアイツ等は何故、あの日、試合に出たんだ?ゴールデン-グローブのためだろう、違うか?どんな時でも、大切なのは何なのかを忘れちゃあいけないんだ。」 もし、マイクがリングの中で何かを決断しなければならない時、そしてその選択が非常に困難な時、彼の言うものが”何”であるのかが見えてくるのだとすれば、彼の選手達はどうそれに答えることができるだろう、あるいはその答はリングを超えるのだろうか、、、 同日、アマの試合の前座として数名の少年達が試合を行った。そしてその前座時間が最も長くもあった。 数ある少年達はテクニック、というものを既に幾らか身に付けていた。殴り合いではなく。ボクシングをしていた。相手のパンチを観て、避け、そしてパンチを出した。ある少年は勝利を手にし、一方は敗北を覚える。また、プレッシャーのためか、相手のパンチによってか、インターバル中、嘔吐する少年もいた、、、 そんな彼等を観て、以前私は畏怖の念を感じていた。個人が勝利、または敗北を知るにはまだ早すぎるのではないか、と思っていたのだ。が、しかし、私は彼等が見せた、一つの勝利と敗北に一生を観たかのように少しばかり感傷的になってしまっていた。 明日もまた晴れるのか、それとも雨が降るのか、、、それは誰も知り得ることはない、しかし私達は経験の中、学んだことがある、 晴れ続ける空、降り続ける雨は、ない。
(文と写真:中屋 一生)
お読みになった感想をissei45456@hotmail.comまでお聞かせ下さい。 |