スパーリン グが始まれば、おのずと人が集まってくる.          

vol.2
彼らの日常
 日本とアメリカとでは、ボクシングジムの在り方がだいぶ異なる.日本の場合、ジムの会長がオーナー、プロモーター、そして人によりトレーナーとして全てを統率し、その下にトレーナーがつき、選手がいる.しかしアメリカの場合、会長という存在がまずいない.ジムを所有するオーナーが選手に練習の場のみを与え、選手は個々にトレーナーを雇う.プロモーターもまた別に存在するのでさまざまな契約が交わされる.そのためジムの中では自分のトレーナー以外の人間が指導をしたり、口をはさむ事が基本的には無い.それぞれが自分の考え、方法で練習を行なっている.中には日本と同じ形式のジムもあるが、最初に述べたような形式がアメリカにおけるボクシングジムである. 

 私が通っているジムの名は「グリーソンズジム」といってアメリカで最も歴史の長いジムで過去にここから100以上の世界チャンピオンが生まれている.中にはモハメド、アリ、マイク、タイソンなどの名も刻まれている.現在も数人の世界チャンピオンがここで汗を流している.ジムが開いている時間は、朝6時から夜10時までと日本と比べてだいぶ長い.練習生は10歳にも満たない子供から、初老の人までと幅が広い.そして私がここヘ着てから驚いたのは女性の数の多さだった.レベルの高い選手もいて、スパーリングでもかなりの動きをしていた.トレーナーの数は20人近く在籍し、アメリカン、アフリカンアメリカン、メキシカン、ロシアン、カリビアンなど国籍豊かなのはやはりニューヨークという土地柄も関係していると思われる.

 私のトレーナーは元WBAライト級世界チャンピオンのジョーイ、ガマチョという小柄な白人の男だ.彼は非常に真面目で、選手のことを常にしっかり考えている、人間としても尊敬のできる人でもある。というのもこのジムの一部のトレーナー達は白い石のようなものを使ったゲームをしていたり、練習をしている選手の目の前で食べ物を食べていたりと、日本では考えられないことをしていただけに、私には大きなショックであった.しかし彼らは何人もの世界チャンピオンを育て上げ、確かな指導力を持っていることも証明している.いかにもアメリカらしいと感じたのはこのときだった.このジムにはボクシング用の三つのリングのほか、プロレス用のリングがひとつあり、プロレスラーも互いの技を掛け合い、練習をしている.ボクシングとかまた違った熱気で満ちていて、私は彼らの練習を観客のようによく見ている.

 ニューヨークのジムではジム内でアマチュアや、ホワイトカラーといわれる素人の試合を月に一回ほどのペースで行い、それをこちらでは「ショー」と呼び観客を集めた試合を行なっている.ホワイトカラーの日には、まだアマチュアのライセンスを持っていないものや、女性、子供の試合が行なわれる.特に子供同士の試合は盛り上がり大人顔負けの連打を打ち合っている.アマチュアの試合は数試合経験のあるものがオープン、初心者およびわずかな試合数だけ経験しているものがノービスとして分けられ、公式試合を行なう.やはりレベルは高く、オープンではそのままプロへと進むことができるであろう選手もたまに見かける.このような選手達はアマチュアで経験と実績を作り、プロとなったときに高い契約金や、注目を集めるため残っているのだろう.(アメリカでは日本のようなプロテストは無く、契約書にサインをした時点でプロとなる.)

 ここに来てわたしが思ったことは、アメリカの観客は試合をそれぞれの感覚で楽しんでいたことだ.彼らはショーに来て、選手に楽しませてもらうというスタンスではなく、自分達が楽しもうという気持ちで見ていた.この空間が非日常的であると解っているからだろう.観客の声援によって凡戦から好ファイトへと変わっていくのを目の当たりにしたときのことであった。

 観客が非日常を求め試合に来るのに対し、選手やトレーナーはジムにいることが日常になっている.彼らは多くの時間をジムで過ごす.プロたちは練習が終わってもジムに残り食事をし、仲間と会話をしている.トレーナーは朝から夜までいる.子供は走り回り、寝ている者もいる.文中にも書いていたように、私はこのようなことにショックを受け最初は好意的に感じていなっかた.しかし時間がたつにつれ、これは、そうボクシングは彼らにとって生活の一部ではなく全てなのだと思うようになった.時にだらしなく見えることもある。しかし彼らが日々戦っていることに変わりはない.私は今そんな環境にいる.

               (文と写真:中屋 一生)



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