vol.19
ジムの風景 ---The Art of Training 〔2〕--- |
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「確かにそれは日本人の見方かもな。」 マイクは私が前回書いた、彼の話を聞いてあのように感じたと話すと、自分の言いたかったこととは少し、意味が違うのだけどもな、という感で苦笑いまじりにそう答えた。マイクが話していたのはセコンドとトレーナーという、その間にある具体的な役割、能力、必要なものの異なりのことを言っていたのだ。 私が望むトレーナー像というものは、決して良きセコンド像とは結びつかない、それは私の甘さというものがそうさせていなくもなかった。 皆が練習を終えジムが静かになり始めた頃、私達は話していた、人の数が次第に減り、Tシャツ一枚では肌寒くなっていた。 「なぁ、この間のアマチュアの試合を思い出してみろ。あの日にセコンドについたヤツ等で一対何人がそれらしいことをしていた?はっきり言ってほとんどのヤツに俺は疑問を感じたぞ。」 そう、あの日のセコンドに就いた、おそらく出場した選手のトレーナー達のその多くの仕事には熱は感じても冷静さというものが少し欠けているようにも見え、そして何よりセコンドとしての技術に足りぬものを感じた。そしてそれはマイクが言葉にするまで私は少しも気付かず、また気にも留めていなかった。 「あれはプロの試合ではなく、ただのアマの試合だった。それは分かっているんだ。それでも、だ。アイツ等が何かを学んでいたようには見えないんだ。もしあれがアイツ等のジョブというものであるのなら、ヤツ等はまだ学ぶ必要がある、まだまだあるんだ。」 マイクは叫んでいた。あの日にグリーソンズから出場していた選手達の試合中、そしてインターバルに入ったそのほぼ全ての時間の中で、 「ツージャブ、ツージャブだ、それだけだ。」 試合中、マイクの声はどの音よりも響いた。何故そこまで応援をしているのだろうと私は思った。ジムの仲間ではあるには違いないが、今までにこのように声を張り上げるマイクの姿を見たことはなかった。自分の選手を見ている意外では。インターバルに入る頃には、セコンドに対し、 「水を頭にかけるんだ。トランクスを少し広げてやれ。水を飲ませるんだ。」 マイクのいうことのそのほとんどが彼等の仕事においてのごく基本的なことだった。そしてまたそのトレーナー達はそれができていなかった。まだセコンドに就くことが慣れていないようだった。 彼等の女子の試合でこの日一番の盛り上がりをみせた激しい乱打戦があった。そのインターバル中、トラブルがあった。選手に与える水が切れたようだった。彼等はこの日、かなりの数の試合のセコンドに就いていた。補充する時間もなかったのだろう。しかしそれは言い訳になり得ただろうか。マイクならそのようなことが起こっただろうか、、、。 「まぁ、アイツ等はまだ経験というものがなかったんだ。セコンドとして、のな。どちらかといえばまだ自分が戦っている感覚なんだろうな。」 アイツ等、あ、イヤ、失礼、彼等は昔プロだった。一方はかなりの選手だったらしい。またそのもう一方は数年前まで試合をしていたようだ。それはあの試合中にみせた熱さが物語り、そして欠落していたセコンドとしての冷静さがまたマイクの言葉を物語った。 私はその後者のトレーナーを(私の見方において)良いな、と思っていた。私には技術的なことは分からない。しかし彼は一人、一人の選手を大切にし、また教えることにも懸命で、そして何よりそれが選手達に伝わっているであろうことが私をうれしくさせた。そのため、あの日の彼に少なからず落胆をした。またそれはトレーナーとセコンドとという者がまた異なるものだということを目の当たりにしたとも言えた。 トレーナーとしての彼は今、すべきことをし、それを身につけ始めていると思う。それではセコンドとしての彼はどうだったろう、、、。 「俺はあの日は、まあ水のことはともかくとして、コーナーの仕事についてはあれで良かったと思う。アイツ等に足りないのは経験だったからだ。だが俺が言いたいのは、それが先へと進む、その経験として積み重なっていくかってことなんだ。」 その言葉跡にはどこか冷たさが残った。 「8年、、、トレーナーを始めてから今、8年になる。最初の2年は大変だったな、常に焦ってた。誰が教えてくれる訳でもなかった。その時、その場所で自分でどうにかするしかなかったんだ。はっきり言って震えていたな時もあったな。」 誰にでも初期というものがある。それはマイクにとって8年前だった。そう古くはない話だ。 「2年位経った頃、震えることはなくなった、落ち着くことができて心地よいくらいだった。そして今はゴールデン-グローブのファイナルだろうと、プロの試合だろうと何の問題も無くこなしていけている。危機的状況、そしてタイトルマッチや放送のある試合、その時、何が自分にできるのか、それが次のレベルへ上がるための今の俺に必要なことだと思う。」 この日マイクは朝の7時からジムにいた。時計を見ればすでに夜の9時を回っていた。人もほとんどいなくなった。しかし寒さはそれほど感じなかった。 「俺が常に感じているのは全てのトレーニングはアートなんだ、ということだ。セコンドだって、トレーナーだってそうだ。カットマンやバンテージを蒔くのだって、全てはアートと呼べるんだ。自分で作っていかなきゃ行けないんだ。その一つ一つを身につけていくことを俺は求めてる。そしていつかその全てのマスターになりたいんだ。」 その行為、その瞬間を芸術と呼べるなら、彼は芸術という時の中でこの先、何が作れるだろうか、また人々は芸術をこうも呼ぶ、壊れゆくもの、と、、、。 私はその瞬間を、見たことがある。 -―――終わり
(文と写真:中屋 一生)
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