vol.31
A letter from connecticut

 僕は今、コネチカット州にあるモヒガンサンというカジノに来ています。マイクの選手、ウェスの試合の手伝いをするためです。
 朝の6時半にポートオーソリティーで待ち合わせをしました。僕が最初に着いて、その後マイクが教えている総合の選手スティーブが来ました。彼は6週間前にグリーソンズにやってきました。近く行われるフィンランドでの試合のためボクシングのスキルを磨きたいのだと言っていました。出身はドイツでさっぱりとした性格はとても親しみやすさを感じています。彼は言います。
「いつか、2年後位にはファイターとして日本に行きたいな。」
 スティーブ-メェシング、いつかプライドのリングに立っているやも知れません。
 続いて明日、試合をするウェスがやって来て、少し遅れてマイクの姿が見えました。皆がそろった所で僕らはバスに乗り込みそれぞれの場所で静かにリラックスをしていました。バスには半分も人が乗っていなかったためスペースが沢山ありました。

 その僕達のバスは途中故障をし、代わりのバスが来るまで待たなければなりませんでした。
 僕の前に座っていた白人のおばさんは連れの人に語りかけるように大声で、「信じられないわ。お金は戻ってくるんでしょうね。何故客にはっきり言わないの。」などと、以前の僕なら思うことを(今も思っているけれど、、、)ほぼ全て吐き出していました。
(ここはアメリカだからですよ。)
と彼女に僕は心の中で呟きました。アメリカではバスはお金のない人々のための乗り物で、だから値段は安いです。しかしサービスはかなり悪いです。彼女が語ってくれています。ただよい所もあります。アメリカの人々は値段とサービスの質を選べるのです。お金を持っている人たちは車も持っているでしょう、タクシーだって使えます。お金がなくとも、地下鉄もバスも安く、学生でも払える値段です。日本の場合はどうでしょう、バスも電車もタクシーも値段が高く、一家族の父親がやっと払えるくらいのものです。そう、日本人は選べないのです。もしあなたの前に安く、サービスの悪い乗り物と,高いが素晴らしいサービスの乗り物、選べるとしたらどうするでしょう。それは旅行でも日常でも構いません。僕なら、、、僕を知っている人たちなら答えなくても分かるでしょうね(答、歩きます)。
 僕はそんな時に日本の良さや悪さを感じるのです。

 話がそれてしまいましたが、バスの中、マイク達は至ってリラックスをしていました。彼は言います。
「だから試合のときはいつも早めに出るんだ。こんなことがあるからな。」日常でもその意識を忘れないでほしいのだけれど、、、
 3時間後、代わりのバスが到着し、乗り換えようやく再び動き出しました。バスのドライバーがアナウンスします。
「皆、待ってくれてありがとう。でもこのバスは変わらず各駅で止まります。」
 それだけでも聞きたかったんだよ、と僕は彼に呟きました。
 2時半にようやくバスはモヒガンサンに着きました。そこからホテルへ向かうタクシーを待つ間、マイクは私にしきりにリラックス、リラックスと言いました。僕はそうしているつもりなのだけど、、、
「イッセイ、そう固くなるな。選手っていうのは周りの空気に敏感なんだ。」
 そう諭されるのを聞いているうちに、あるいは僕は選手を必要以上にケアしているのかもしれないな、と思えもしました。その意味で僕は彼等に多くを聞きすぎ、手を貸そうとしすぎているのかもしれません。それ位でちょうどよいとも考えていましたが、それが彼等の妨げになるのなら、僕は控えた方がよいのでしょう。マイクはこうも言います。
「試合が始まる前からその後までのほんの僅かな時間だけでいいんだ、集中するのはな。それまではいつもと同じようにしている方がいいんだ。」
 その話を聞いてマイクが試合時間に近づくにつれ言葉数が少なくなってゆく理由が分かります。

 ホテルはフォックスウッツのときと比べ部屋が広く、寝るスペースも充分にありました。僕達は部屋に着くと少しばかり休み、ウェスの計量のためにカジノは戻りました。
 シアターの中で、僕は今回セコンドにつくことになっているのでそのIDを作るための書類にサインなどを書き込んでいました。ウェスは終始、眠そうに俯き、マイクはそんなウェスにささやいては笑っていました。スティーブはまるで自分んが試合をするかのようにパワーバーをかじっていました。
 計量はシアターの外に場所を移して一般の人たちが見れるように設置していました。明日の試合のメインはESPN2で放送されるのでそれなりに大きな興行のようです。最初にメインの選手達が計量をすませ、その後にアンダーカードの選手達がはかりの上に乗りました。
 ウェスは151パウンドで計量をパスしました。相手は152パウンドでした.その相手のレコードは0−1でデビュー戦を負けているようでした。彼は身長がウェスト同じ位の黒人で、表情が幾らか緊張しているようでした。
 計量後、ルール説明、ドクターの診察などを終え、私達はビュッフェに向かいました。  カジノ行きのバスのチケットにはクーポンが付いていて、食事券とスロットやテーブルなどに使う券があります。これらの券は当然フリーなのでいかに客達がそれ以上のお金をカジノに落としていくのかがわかります。べガスでは僕もその一人でした。

 ビュフェではローストビーフ、パン、サラダに、アイスクリームを食べました。ウェスはパスタやピザのようなものを軽く食べていました。まだ彼は食事に付いてはそれほど気にかけていないようです。

 7時半頃ホテルに戻ると僕とマイクそしてスティーブはプールとウェイトのあるトレーニングルームは行き、一汗流しました。マイクはランニングマシーンを使い、スティーブは泳ぎ、僕はウェイトをやっていました。
 しばらくしてスティーブは泳ぐのをやめ部屋に戻っていきました。マイクもウェイトを少ししてから「明日の朝、俺は泳ぐ。」と言ってトレーニングルームを出て行きました。
 僕は残り、下着だけでプールの中に入っていきました。生暖かい水が僕の頬に当たります。  この日は何事もなく夜を迎えていました。一人でいるプールはとても静かで、僕は何も考えず泳ぎ続けました。
 部屋に戻るとスティーブは豪快に寝ていました。彼の行動は野生児のようです。ウェスはテレビを見ていて忙しなくチャンネルを変えていました。マイクはパソコンをいじっています。
 僕はシャワーを浴び歯を磨いた後、彼等と一緒にテレビを見ていました。マイクがパソコンでストリートファイトのDVDを見だすと、僕もウェスもそれに連れられ彼のパソコンの画面を覗き込みました。彼等は笑いながら(卑猥な言葉を使いながら)その画面を見ていました。
 リラックスしすぎているようにも見えましたが、これが彼等の方法なのだからし方がありませんね。
 12時を回る頃、僕は絨毯のしかれた床にベッドの毛布を一枚マイクからもらい、それにくるまるようにして横になりました。
 前回のフォックスウッツの夜は寒さと空しさが僕の心をいっぱいにしていましたが、この日の床は暖かく、床の固さも心地の良いものでした。僕はその夜、深い眠りにつきました。

 次の日、朝の9時頃目が覚めました。そして朝食をとり、この文を書いています。今日もこれから何が起こるか分かりませんが、まぁ、どうにかなるでしょう。言葉のこと、伝わらない意思のことで僅かなズレを感じ頭をもたげることもありますが、今は時間を重ねていかねばならない時なのだと思います。
 今、アポロの姿が見えました。そう言えばマイクが昨日アポロと電話で話し、後から彼が来ると言っていたのを思い出しました。ひょっとしたら彼が代わりにセコンドに着くかもしれません。
 今日も暖かいです。春が僕のそばにもやってきました。

―――終わり

               (文と写真:中屋 一生)




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