vol.35
ジムの風景 --- 得たとするならば、、、

 4月27日、その日の夜、私はマイクとNYのマンハッタンから長距離バスで2時間程の所にあるモンテセロという郊外の道を歩いていた。
 Tシャツ一枚とジャケットだけでは少し肌寒かった。それはあるいはこの風景がそうさせたのかもしれない。夕食をとったダイナーと私達が泊まっているモーテルを挟んだこの道沿いはバーなどもあったが、それは持て余す空間をなんとか埋めようとしているかのようなに見え、また、そのような建物ばかりがぽつりぽつりと寂しげに建っていた。
「俺は別に子供を育てている訳じゃないんだ。」
「でも、そんな感じだね。」
「ああ、、アイツはまだ分かっていないんだ。」
「でもあれがタイトルマッチのような大きな試合でなくてよかったでしょ?」
「違うんだ、俺が言っているのはそんなボクシングのことじゃないんだ。アイツの、、アイツ等の人生のことを言っているんだ。」
 私達は歩き、話し続けた、、、



 この日の午後2時、私達が待ち合わせたポートオーソリティーにウェスの姿はなかった。
 私は10分程前に、マイクは時間通りに約束の場所に着いた。10分を過ぎてもウェスが来る気配がない、マイクは彼に電話をかけるが繋がらなかった。どうやらまだサブウェイの中にいるようだ。
「くそ!何やってんだ!もうとっくに約束の時間は過ぎてるぞ!」
 マイクは苛つき、ステーションの周りを落ち着きなく歩き回った。
「マイク、まだ15分しか経ってないじゃないか、きっと、地下鉄が少し遅れてるんだよ。」
「そんなん関係ない!2時と言ったら時間は2時だ!その後なんてありゃしないんだ。」
 私はマイクの憤怒した姿を見て、本当に時間の余裕がないことが分かった。そして時計が2時20分を指す頃、マイクは吐き捨てるように叫んだ。
「もう終わりだ!今日の試合は終わりだ!」
 私は何も言うことができず、ただ黙って人ごみの中からウェスが少しでも早く現れてくれることを願った。平日の陽気で暖かい春の中、私達は重苦しい空気から出ることができずにいた。
 そんな時、ウェスが2時半を回った時に姿を現した。マイクはウェスに怒鳴った。

「何やってんだ、遅すぎるぞ!もう二時半だ!」
「サブウェイがいつも通りにこなかったんだよ、、、」
「そんなこと知るか、俺は2時にここに来いと言ったんだ!」
「だって、、、」
 ウェスがさらに言い訳を喋るのも聞かずにマイクは駅の中へ入っていった。私達も彼を追った。
 二階にあるバスのチケット売り場でマイクは定員に聞いた。
「モンテセロの往復チケットをくれ。それと、バスが来る時間は?」
「2時半だ。」
 既にその時間は過ぎている。
「くそ!まだバスはここにいるのか?待ってもらうように言ってくれないか。」
 定員はブース内の離れた場所にあった電話を使って連絡を取ってくれた。何か2、3こと話した後で、彼は首を横に振った。もう出てしまったらしい。
「次のバスはいつなんだ?」
「4時半になる。」
「オー、メーン!」
 マイクは両腕を広げ叫んだ。そして、背負っていた大きなリュックサックを投げ捨てるように地面に置き、どこかに電話をかけ始めた。ウェスは下を向き、黙ったままだった。私はマイクの電話のやり取りを見ていた。
 どうやら明日の試合のプロモーターと話しをしているようだった。
「、、、そうなんだ。、、遅れて、、次が4時半で、、、」
 7〜8分程話した所でマイクは電話を切った。電話のやり取りを見るかぎり、どうやら次のバスでもまだ計量に間に合うようだった。マイクは一息ついた後、再びウェスに激しく怒鳴った。
「いいか!サブウェイが遅れようと、バスが遅れようと、知ったこっちゃない、決めた時間が2時なら、何があっても2時だ!、、、!!、、、、、、、、!」
 どのくらいマイクは説教をしていただろう、、15〜20分程か。ウェスは俯きマイクよりも体が小さく見えた。 「そう、おかげで2時間も時間ができちまった、俺は外に出る。時間の15分前に停留所にいるからな!どこかで時間をつぶしてろ、ただ今度は絶対に送れるな。」
「今からそこに行くよ、、」
 ウェスは呟くように彼に言った。
 マイクはそれには答えず、来た道を戻るようにしてエスカレーターに向かっていった。私もウェスに自分もとりあえず外に一回出るよ、と言い、彼の元を離れた。私は一緒にいることは構わなかったが、彼がそれを望んでいるとは思えなかったからだ。

 ジムでも試合のときでも、私達はいつも軽く挨拶をして少し試合のことなどを話す、という程度で、これまで二人きりで長い時間話しをしたこと等はなかった。いつでも私達の間にはマイクがいたのだ。気まずく時間が過ぎるのを待つよりも、一人でいた方が彼にとっては気が楽だろうと思った。

 私は駅の外に出て、行く所などどこにもないことに気がついた。それを探すのも面倒になり、私はその入って来た場所とは違う入り口の前の階段に座った。そして持ってきていた文庫サイズのヘミングウェイの短編集をジーンズのポケットから取り出し、それを読み始めた。しかし20分程読み続けてみたが、物語の中に入っていくことが中々できなかった。
 私は考えた末に思い決めた、
(少し、話してみるか、、)
 その文庫本をリュックの中にしまい、私はゆっくりと立ち上がった。



 3階の停留所では地面を見つめ、両足を放り出し、音楽を聴きながらベンチに座っているウェスがいた。
 視線を私に向け、軽く頷くとまた目を地面に落とした。私は何も言わず彼の座っていたベンチの隣の隣に座った。
「大丈夫か?」
 私が何か行ったのに気付き、彼はイヤホンをとり音楽を止めた。私はもう一度同じことを言った。
「大丈夫か?」
「ああ、、」
「やっぱ、遅れたのはまずいよな。」
「サブウェイが待っても全然こなかったんだよ。それにこれが初めてじゃないか、遅れたのは、そうだろ?」
 強い口調でウェスは私に言った。それを私はただ頷いて聞いた。
「いつもは大体くるんだ。今日だって俺は時間通りに家を出たんだ。」
「でも遅れたと?」
 彼は私のその返事に気を悪くし、再び黙ってしまった。
「まぁ、マイクの言うように1時間前に来て、周りを歩いて時間を待てというのは、減量中のボクサーには確かにキツいよな。」
「そうだよ。」
「でも、歩かなくてもいいから、今度は早く来て待つ必要はある、だろ?」
「分かってる、、、」
 ウェスはふてくされた表情をしながら体をすぼめるようにして座っていた。しばらくの間、私達は無言の中にいた。
「何でボクシング始めたの?」
 私が唐突にウェスに聞くと、彼はつまらないことを聞いてくるな、というような表情でつまらなそうに答えた。
「別に、バスケやってたときと同じで、ただやってみたかったからだよ。」
「家族は、ガールフレンドや、親は賛成してるのか?」
「ああ、母親なんか特にな。」
「友達は?」
「、、いや、アイツ等はあまり、」

 ウェスはゲットー地区に生まれ、過去には幾つか過ちを犯したこともある、というのを以前マイクに聞いたことがある。彼は現在、その実家から離れ、ガールフレンドと一人の2歳になる小さな男の子と暮らしている。だから今は昔の仲間ともそれほど会っていないのだという。
 そして彼の仲間は今もストリートにいる、のだとも言った。それはつまり、ドラッグを売り、仕事をせず、生活補助のみで生きているという意味だ。そして彼が今でも仲間がストリートに戻ってくるように誘ってくるんだ、と悲哀のある表情で呟くと、私はそれに対しては何も言うことができなくなってしまった。
 遅れ、言い訳をし、落ち込むウェスは確かに日頃マイクが言うようまるで子供のようだが、タフな世界で生き続けていたのも、また確かなことだった。あるいはそこでは時間よりも大切なものがあり、彼はそれだけは守り続けていたのかもしれなかった。私には皆目それがなんであるのかは知る由もないのだが、、、

「ウェス、ストリートとリングの中と、どっちがタフだ?」
「ストリートに決まってんだろ!ルールなんてないんだぜ!」

 私はそれを聞いた時、心の中で呟いていた、
(ルールがあるということもまた、厳しいことなんだよ)と、、、



「息子は父親が戦っているのは分かっているのかな?」
「ああ!」
 子供の話しをするとウェスは表情を緩め、ニコリと笑った。
「本当でかくなるのが早いよな、すぐに超しちゃうんじゃないか?」
「平均よりもデカイんだ。」
 ウェスはたまにジムにその息子を連れて来て、私は彼のその成長の早さを見るたびに驚いていた。
「家族を守んなきゃならないならないんだな。」
「そうだよ!俺はファザーだぜ。皆を食わせなきゃなんないんだ。」
 幾分興奮して彼がそう言ったのは、マイクに子供だ、子供だ、と今日も普段も言われ続けていることに対してではなかったか。
「マイクは、、多分、マイクは君を信じたから今回、集合する時間をいつものように早い時間にせず、普通の時間にしたんだと思う。」
「、、、分かってるって。」
 ウェスは話しているうちに次第に落ち着いていった。別に私に気を許した、と言いたい訳ではない、その証拠に彼は何一つ私については聞いてはこなかった。しかし、私がここにいることに特別、気まずさを感じてもいないようだ。私は彼と話してよかったな、と思えた。

 ウェスと会話をしたり、本を読んだりしている間に思いのほか2時間はあっという間に過ぎていった。出発20分前にバスを待つラインに私達は加わった。
「これでマイクが遅れたら、笑えるな。」
 私がウェスにそう言うと、ウェスは「ああ!」と、笑いながら深く頷いた。それを見て、もう彼は大丈夫だろうと思った。
 マイクは時間通り15前に姿を見せた。大きなリュックサックを背負い、既にいくらかの疲れが表情ににじみ出ていた。
「まっ、これでバスがこの前のように止まらなければよいのだけどね。」
 私がマイクにそう言うと、
「お前、冗談言うなよ。」
 マイクはにやりと笑った。
「ウェス、これっきりだぞ、いいな?」
「イェス。」
 ウェスはハッキリとそう答え、もうその後はいつもの二人にもどっていた。



 バスは何事もなく目的地のモンテセロまで緩やかに走っていった。バスの中では冷房がかかっていたため、駅で下りると外の風をいっそう冷たく感じさせた。周りはその駅以外では何もない平地だった。
 しばらく外で待つと、プロモーターのボブ-ダフィーという白人の男が私達を迎えにやって来た。別に怒っているようでもなく、私達を車で会場に連れて行ってくれた。
 明日の試合会場となるこの場所は小さなカジノと競馬場が混ざってできていた。マイクの話しでは3階にある馬券売り場にリングをおくのだ、と言っていた。
 私達はその3階に向かうとまだリングも何もそこにはなかった。奥にある部屋ではコミッショナーやドクターが話しをしながらウェスが来るのを待っていた。
 ウェスは秤の上に乗り、152パウンドで計量を無事終えると、持って来ていたスポーツドリンクを一気に飲み始めた。ドクターのチェックも終え、これでウェスは何とか試合には間に合ったのだ、と私は思いマイクに、
「最終的には、ね」と言うと、彼は短いため息だけをついた。
 私達は全てが終わると次は今夜泊まるモーテルへと向かった。ピート、という別の白人が今度は車を運転してくれた。彼は昔はファイターで現在は自分のジムを持ちセコンドやマネージャー、プロモートなどをしているらしい。
 「ボクシングを愛している、素晴らしい男だ。」マイクは後に私にそう語った。そして、無銭で自分をいつも助けてくれている、のだとも言った。そういえば前にNYとフロリダに自分をサポートしてくれるプロモーターが二人いると言っていたのを思い出した。どうやら元ボクサーらしい喋り方をするこの男がその一人のようだ。
 ピートは私達をモーテルで降ろし、再び車を走らせた。彼はまた別の所で泊まっているようだ。私達は2階の部屋の鍵をもらい、部屋に入ると荷物を置いて道を挟んだ反対側にある、いかにもアメリカといった感のダイナーは向かった。
 ダイナーに入ると白人の学生程に見える女のウェートレスがオーダーを取りに来た。
 私はシシカバブのようなものを頼み、マイクはハンバーガーのセットをウェスはチーズフライのようなスティックとステーキのような何かの肉を注文した。
 私達はたわいもない話しをしながらそのディナーを食べていた。彼等は昼の、一時はキャンセルになるのではないかと思われた空気が嘘のように話していた。
 それは私を安心させ、そのもう一方でこんなものなのか、と思わせもした。彼等はこれを繰り返すのだろうか、、、

 ウェスは食べ終わると、先に宿の方へ戻っていった。ベッドで休みたいのだと言った。
 マイクは彼の宿に戻る後ろ姿をダイナーの窓から眺め、深いため息をついた。
「どうしたの?今日の遅れたこと?」
「、、ああ、」
 マイクはコーヒーを一口飲んだ。



 控え室の外からは、つまりリングのある会場からは女性の美しい歌声が聞こえてきた。どうやらメインの前に国家斉唱が行われているようだ。マイクはウェスのグローブを外しながら彼に語りかけるように言った、
「お前は怖がってるんだよ。ジャブをあれだけ当ててるのにどうしてその後、左を出さないんだ(ウェスはサウスポー)?ダメージだって与えていただろう、相手はあれだけミスブローを出したんだ、お前はそこを狙わなきゃ行けないんだろう。」
 ウェスは何かを言いたそうであったが、黙ってマイクの言葉を聞いていた。
「お前に1、2ラウンドはやったんだぞ。3ラウンドも4ラウンンドもだ。それで前は左を出さなかった。だから後のラウンドに出せ、と言ったんだ。でもお前は聞かなかった。」
「ヨー、マイク、俺は相手と距離をとってたんだよ。」
「いいか聞け、違うんだ。お前は俺を信じてなかったんだ。やることは分かってたんだろ?やらなきゃいけないことは。俺もお前に言った、そしてお前はそうはしなかった、俺が言ってるのはそのことなんだよ。」
 拍手や口笛の音が鳴り響く。これから今夜のメインが始まるようだ。
 ウェスは今日、初の6回戦をほぼフルマークの判定で相手を下した。スタミナが心配されたが、彼はフルラウンド足を使い続け、相手にパンチを当てさせなかった。いつも通りの試合運びだった。この日私達が分かった確かなことは、彼のテクニックが6回戦にあっても際立っているということと、これだけでは、この先の上のレベルで、相手を倒すことができなければいつか、あるいは近いうちに捕まってしまうだろう、ということだった。
 ウェスは早々に着替え、メインの試合を観に行った。同じグリーソンズでかつて一緒にトレーニングをしたことがある仲間が今夜のメインのボクサーだったからだ。マイクは今日の試合を観に来ていたスポンサー達と控え室のさらに奥にある部屋で話し込んでいた。
 私はバケツの水と氷をゴミ箱に捨て、試合に使ったものを片付けた。ハサミや、タオルにはワセリンが残っていて私の手はべとついた。そして試合のために来ていたジャケットを脱ぎ、私も遠くから試合を観戦した。
 その時、先ほどまで私はあそこにいたのかと、思い、またそれを思い出していた。

「おい!今何ラウンドだ!?」
 マイクが試合中、私に聞いてきた。私はあわてて答えた、
「た、多分、3ラウンド目!」
 一緒にコーナーについたピートが言う、
「違う!2ラウンド目だ!」
 インターバル中、いかにも地元のモデルといった感の白人のラウンドガール(の持つボード)を私達は一斉に見ると、”3”と、書いてある。マイクは私の間違えには時に気にもせず、ウェスに指示を与えた。
 私が日本で試合のタイマーをやっていて、試合中のセコンドがラウンドを聞いている姿を見た時に、何故そんなことが分からなくなってしまうのだろうと、不思議に思ったことがあった。しかし、本当に分からなくなってしまうのだ。
 それは試合のその瞬間、瞬時に全てをかけているからなのだろう。
 私はまた見えていなかったものを見ることができたのだ、と感じた。
 少しずつ、私は何かに近づくことができているのだろうか?



 マイクがスポンサー達と話し終え、控え室から出て来た。
「片付け、お前がやったのか?」
「うん、」
「、、、今度、5月19日、アポロが元USオリンピアンのデビュー戦の相手に選ばれた。」
 私は声を上げた。
「すごいじゃないか!」
「それで、その内容によっては、デラ-ホーヤと契約できそうそうなんだ。」
 この話しは今まで湧いては消えてきた、どの契約の話しよりも現実的なのだと私に思わせた。それはマイクの表情に笑みが見え、「多分だ。」という声に緊張を感じさせたからだ。まだ正式に契約はしていないのだが、と言った彼の言葉も気にはならなかった。それほど、確かな”予感”をこの時感じてしまったのだ。
(ついに、ターニングポイントとなる試合が彼等にも訪れるのか。)
 私が少なからず興奮していると、マイクは言った、
「時間を空けとけよ。」
「もちろん、別にセコンドや近くに行けなくても観に行くよ。」
「何言ってんだ、お前もセコンドについて一緒に行くんだよ。」
「うれしいけど、大切な試合だしね。もし誰もいないならそうさせてもらうよ。」
「いいか、これはチームだ。お前もその一人なんだぞ。だからウェスだって心配しないで試合をしてるんだぞ。」
 はたしてウェスがそう思っているかは定かではなかったが、少なくともマイクはそう考えてくれているのだと思うと、私は胸が熱くなった。
「、、、ありがとう、」
 私はそう彼に言うとリングを見つめ、昨日の夜のことを思い出していた。

「アイツ等と比べて、お前やヨウジ(マイクの教えている日本人ボクサー)はよくやってるよ。生まれた国から出て、家族からも離れて、NYで生きてるんだからな。」
「マイク、ヨウジはともかく、別に俺はね特別何もやってないよ。」
 私は笑いながら、しかし彼がそのように私を見ていたということに正直驚いた。私は本当に何もやってはいないのだ。ただできることだけをしているだけなのだ。
 しかしそれをマイクに納得させるのは難しいかもしいのかもしれなかった、なぜならマイクもまたかつてはウェスのようにゲットー地区で育ち、それゆえウェスと同じような問題、そう、今日のような時間のトラブルも多く経験しているであろうからだ。やはり彼等と私達と生きてきた世界は違うのかもしれない、、、
「俺は、あいつらに成功して欲しいんだよ、、、当然ボクシングもそうだけど、それ以上に人生に、だ。よく俺はお前に話すけれど、俺達にチャンスはそう多くはないんだ、、」
 マイクの言う、俺達というのは彼等も含めた黒人達のことであり、チャンスという
のは成功や社会的地位を得ることの、ということだろうか、、、
「ボクサーでいられる時間は短いし、その後の方がずっと長い。そして今でしか学べないこともあるんだ。そのチャンス、、、アイツ等はそれがまだ分かってないんだ。」
 その学ぶべきことの一つがあるいは彼等にとって時間だとしても何らおかしくはなかった。マイクが何故あそこまでウェスを怒鳴ったのかが、今なら理解ができた。
 私はその夜、ウェスにもそれが伝わっていて欲しいと願わずにはいられなかった。

 そのウェスが試合後、ダイナーで夕食を食べてる時に私に言った、
「You did.(お前はよくやったよ)」
 ぶっきらぼうにウェスは私に言った。
「椅子だってすぐ出したし、マイクがタオルって言ったら、すぐ出した、、、」
 ウェスは動作を交えて私がやっていたことを笑いながら言った。改めて聞くと私は本当に対したことはしていないのだと思った。全て簡単なことだ。しかし、リングの上でそれを普通にすることが私には難しかった。  だが、それでも、、、

 もし、私がこの日々で得たものがあるとするならば、、、

―――終わり

               (文と写真:中屋 一生)



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