この帽子を見ると彼を思い出す.     

vol.6
帰す場所は(前編)
 ニューヨークではアパートを借りるとき、学生などはだいたいがシェア(部屋別同居)で部屋を借りている。これは勿論この町の家賃の高さが理由であり、、他人同士 が一緒に住むのだから当然折り合いが合わず、結局また引越しをするハメになる人も 少なくない。特に外国人とのシェアは文化や個人の考えの違いによりうまくいかない ことのほうが多いようだ。微妙なニュアンスや受け取り方の違いによる誤解などがあ り、やはり言葉の壁もかなりある。やはり日本人は日本人とのシェアが殆どだ。しか しそれでもうまくいかないことがあるのだから、外国人とではなおさらあわないのだ ろう。

 ルームメイトとの付き合い方は仲の良いところもあれば、会っても話もしないとこ ろもある。友達同士でシェアをする者もいるが、基本的にニューヨークでのルームメ イトとの関係はあくまで部屋を供に借りているだけという意識が強いようだ。お互いに干渉することなく、自分のリズムで生活できればよいと思っている。この町に住ん でいる人々は自分のことで精一杯なため他人を気にしている暇などないのだ。私も日 本にいたころに比べ他人の目というのを気にする暇がなくなったように感じる。

 私は今ブルックリンに住んでいて、一度引越しを経験している.引越しの原因はケ ンカなどではなく、期限付きの約束だったためだ。こちらにきたときは最初の二十日 ぐらいを知人のところで泊まらせてもらい、そこからアパートを探していた。こちら ではどのようにアパートを探すのかというと、日系のスーパーや日本食などにある掲 示板や、インターネットや新聞、フリーペーパーなどを見るのが一般的だ。私もそのように掲示板などを見て回っていた。しかし私がニューヨークについたころはシェア 募集の張り紙は少なく、なかなか見つからずにいた。そんなときにジムで出会った鈴 木ヨウジ君という日本人が「来月からカリフォルニアに行くから良かったら換わりに 入れるかルームメイトに聞いてみる」と私に申し出てくれた。結局私はそのまま彼の部屋に入ることになった。そして彼はカリフォル二アの学校に行き、そこでアメリカ でプロボクサーになるといい、私の前を去った。もし同じ世界で生き続けているの なら彼とはまた何処かで必ず会う事になるだろう。

 私は知人の家のあるニュージャージーからニューヨーク、クイーンズのウッドサイ ドというところに暮らす事になった。ここは当時通っていた学校から40分くらい で、ジムには一時間半ほどの、スパニッシュと韓国人が多く住むとても安全なところ だった..ベースメント(半地下)に多くの外国人 ルームメイト達と住むことになった.スパニッシュの女、マヤとチャイニーズの男 J.Zのカップル、マヤの兄、白人の男、ケビン、日本人の女、よしこさんと私の6人 だ。私の部屋は畳四畳半ほどの狭いところだったが、住めればよいと考えていた私に は十分な広さだった。まとめ役であるマヤがキレイ好きということもあり家は片づいていたが、ベースメントのため暗く、冬だったあのころはかなりの寒さがあった。 (後で分かったのだが、私の部屋のヒーターは故障していたようだ。ニューヨークで は規則で全ての部屋にヒーターをつけるように定められている。しかし現実には故障 していてもなかなか直さないところもあるようだ。)

 キッチンにある食器などは自由に使っていいと言ってくれたため、私は特に生活用 品を買うことなく生活ができた。ルームメイト達は着いたばかりの私に優しく、学校で 持ち帰った宿題などを見てくれたり、質問によく答えてくれた。日本人のよしこさん はイタリアンのレストランで働いていて帰りが1,2時と遅かったが、特に真夜中で も危険はないと言っていた。彼女はできるだけ私が英語を使うようにと、どうしても 話が伝わらないときのみ間に入って話をしてくれた。マヤの兄は物静かでとくに話したことはなかったがボクシングが好きでよくビデオを私に貸してくれた。白人のケビンは本当によく喋る男だった。出会った記念にとヤンキ―スの帽子を無理やり私にくれたり、一時間ほど独りで喋りつずけたりしていた。いつもハイテンションなので、どこかおかしく感じるほどだった。そして彼がルームメイト達の悩みの種であるのを後に 知ることになった。

 ある日、私が買っておいた飲み物が大幅になくなっていた。その後も食品などがなくなり、おかしいと思いマヤに聞くと、どうやら原因はケビンらしいのだ。頭にきた 私は彼の部屋へ行き、つたない英語で彼に文句を言うと、彼はしらばっくれるばかり だった。マヤが問いただすと彼は認めたが、謝るのはその場のみで、その後もたまに 手を出していて私はあきれていた。マヤに聞いたところでは、どうやら彼はドラッグ を隠れてやっているらしく、今仕事も首になり家賃も貯まっているのだという……。

 こうして私の初めてのルームメイト達との生活が始まったのだった。 (後半に続く) 

 

               (文と写真:中屋 一生)



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